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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)2577号 判決

大阪市鶴見区諸口四丁目六番三号

控訴人(附帯被控訴人)

有限会社 今井ミント

右代表者代表取締役

今井利治

右訴訟代理人弁護士

坂恵昌弘

大阪市中央区玉造二丁目三番四八号六〇四

被控訴人(附帯控訴人)

株式会社 キッズカンパニー

右代表者代表取締役

髭達也

右訴訟代理人弁護士

南川博茂

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  本件附帯控訴に基づき、原判決中金銭請求に関する部分(主文第三項の全部及び第四項の一部)を次のとおり変更する。

1  附帯被控訴人は附帯控訴人に対し、一一五万七二〇〇円及びこれに対する平成四年一〇月一六日から支払済みまで年五分の割合による金額を支払え。

2  附帯控訴人のその余の金銭請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、二分の一を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

四  この判決中金銭支払命令部分は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  附帯控訴人は、「原判決中金銭請求に関する部分を次のとおり変更する。附帯被控訴人は附帯控訴人に対し、二三一万四四〇〇円及びこれに対する平成四年一〇月一六日から支払済みまで年五分の割合による金額を支払え。」との判決を求め、附帯被控訴人は附帯控訴棄却の判決を求めた。

原審での請求金額は五〇〇万円であったが、附帯控訴の趣旨は右の限度となっている。

第二  事案の概要

一  当事者の営業とその商品形態

1  被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」と表記)と控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」と表記)は、いずれも鞄、袋物等の製造、販売を業とする会社である(争いがない)。

2  被控訴人は、昭和六三年七月ころから原判決別紙物件目録(一)記載のリュックサック兼用バッグ(以下「被控訴人商品」という)を製造販売している(甲四~七、九、一一、検甲一、被控訴人代表者=原審)。

3  控訴人は、平成三年一二月ころから原判決別紙物件目録(二)記載のリュックサック兼用バッグ(以下「控訴人商品」という)を製造販売している(争いない)。

二  請求の概要

被控訴人商品の商品形態は、遅くとも平成二年春ころには日本国内において被控訴人の商品表示として広く認識されるに至ったこと、控訴人商品の商品形態は被控訴人商品の商品形態と酷似しており、控訴人商品は被控訴人商品と混同を生じ、被控訴人はこれにより営業上の利益を害されることを理由に、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、控訴人商品の製造販売の停止等を求めるとともに、同法四条に基づき、控訴人商品の販売による損害二三一万四四〇〇円の賠償を求める。

三  争点

1  被控訴人商品の商品形態が商品表示性及び周知性を取得したか。それが肯定される場合、その取得の時期は控訴人商品の製造販売開始前か。

2  控訴人商品の商品形態は被控訴人商品の商品形態と同一のもの又は類似するもので、両商品間に出所の誤認混同が生じるか。

3  控訴人商品の販売により被控訴人の営業上の利益が害されるか。

4  以上が肯定された場合、

(一) 控訴人に故意過失があるか。

(二) 控訴人が賠償すべき被控訴人に生じた損害の金額。

第三  争点に対する判断

一  争点1(被控訴人商品の商品形態が商品表示性及び周知性を取得したか。その取得の時期は控訴人商品の製造販売開始前か)

1  事実関係

証拠(甲一の1~6、二の1~3、三~七、九、一〇の1~6、一一、一六~一八の各1・2、検甲一、三、被控訴人代表者、控訴人代表者=原審及び当審)に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 被控訴人は、被控訴人代表者髭達也が昭和五七年一〇月に個人営業として始めた事業を、昭和五八年四月に株式会社組織として改めた会社であり、創業以来、若者志向のファッション性に富み、かつ比較的安価な鞄、袋物を製造販売している。昭和六〇年ころからは、若者志向を更に男女別にして、メンズ志向の「ムスタッシュ」ブランド・シリーズと、レディス志向の「ポワロ」ブランド・シリーズに大別し、精力的に、各シリーズごとの新商品の企画開発戦略を展開してきた。

(二) 被控訴人の社内で「ムスタッシュ」ブランド・シリーズ商品の企画開発及びデザインを担当しているデザイナーの東幸治は、昭和六三年一月ころから、同シリーズ商品の一環として、従来のメンズ・カジュアル・バッグの範疇に含まれない新商品を開発すべく検討を開始した。

東幸治は、新商品の企画開発のコンセプトとして、〈1〉 当時、鞄、袋物業界でも消費者の自然志向を受けて、素材に綿や麻などの天然繊維を用いた織物生地の商品が中心で、その色調も淡色系統の自然色が全盛であったのに対抗して、人工的な素材を用いて、冷たい無機質な感じの商品を新たに作り出すこと、及び、〈2〉 それまで主として野外で使用されることが通念となっていたリュックサックを、若者が街中で使用するのに相応しいファッション性に富んだタウンバッグ兼用商品に変身させることの二大テーマを想定して、種々検討を重ねた。

その結果、東幸治は、同年五月ころまでに、ファスナー式か巾着式が通り相場であったリュックサックの開放部に用いられる部品として、それまでの常識に反し意表を突いて、従来から婦人用セカンドバックなどの芯材として布などに被覆されて使用者の目に触れない形で使用されていたアルミ製口枠(アルミパイプハンドル)を、剥き出しに露出して使用し、むしろその金属としての質感や量感を強調し、これをリュックサックの開放部に蝦蟇口状に取り付けることを発想し、この新規なアルミ製部品と共に、主たる生地素材としては、それまではナイロンや布製生地の商品が中心であったのに対し、表面はツヤ消しのゴムのような質感を持つように塩化ビニールにウレタン処理でヌメ加工し、裏面はモスケットと言いならわされているレーヨン基布から成る生地を組み合わせて使用した変形リュックサックを創作した。

(三) 東幸治のこの変形リュックサックのアイデアが社内で採用され、被控訴人は、その商品化を進め、昭和六三年七月ころから、被控訴人商品を含む商品名「ブルドック」、商品番号BL-5551B、BL-5552B、BL-5553B(甲四。各全六色)のシリーズ商品の製造販売を開始した。

(四) ブルドックシリーズ商品は、その斬新なデザインと比較的安価な価格(小売単価五九〇〇円~七九〇〇円)とが相まって、ファッションに興味のある若者を中心として顧客層に次第に好評を得るようになり、特に平成二年に入ってからは急激に売上げが増加し、流行に敏感な若者らの注目を集めるようになった。当初蝦蟇口部に取り付けられていた板バネが金属疲労や余計な負荷を受けて折損する場合もあり、購入者から苦情が来て出荷調整を余儀なくされることもあったが、それも、同年中に右板バネの使用を中止して新しい金具を用いるなど、商品の品質改良にも努めた結果、更に順調に売上げを伸ばし、被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品は、同年後半ころには大手百貨店、スーパーマーケットなどでも商品の品切れ状態が起きるほどの売れ行きを示すに至り、その後も季節要因その他による若干の変動はあるものの、被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品の売上げは堅調に推移していた。

(五) こうしたブルドックシリーズ商品の流行現象は、マスコミや流通業界でも脚光を浴び、同商品は、男性用ファッション雑誌「メンズノンノ」の平成四年三月号に「カジュアルでオールラウンドなバッグたち。……防水や衝撃に強く、だけど軽くてオシャレ……アルミパイプがパカッと開いて使いやすさも抜群……」の記事と一緒に紹介され、また、カタログ販売の丸井百貨店の丸井ファッションカタログ「ヴオイ」の同年春号に「3ウエイに使えてべんりなキッズカンパニーのリュックをどこにでもつれていく。」のコピーの下に掲載され、更に、同年三月一三日午後七時三〇分、ABCテレビ系列の全国ネットワークで放送された若者向け情報番組「はなきんデータランド」の「発表!個性別着こなし&クツとバッグ」のコーナーにおいて、アルミ製口枠をポイントとした人気商品として取り上げられた(番組中で取り上げられているのは、ブルドックシリーズ商品中のBL-5552Bの商品と認められる)。

(六) しかし、その一方で、類似商品が市場に出回ったことと需要の一巡により、同年一〇月ころからブルドックシリーズ商品の売上げは次第に減少傾向をたどるようになった。

(七) 一九八八年(昭和六三年)七月から一九九二年(平成四年)一〇月までの間のブルドックシリーズ商品の売上げ実績及び一九九一年(平成三年)一一月から一九九三年(平成五年)二月までの間のブルドックシリーズ商品の各月別売上げ実績をまとめると、原判決別紙「表1・2」のとおりであり、それらをグラフ化すると、それぞれ原判決別紙「グラフ1・2」のとおりになり、ブルドックツリーズ商品の発売以来現在までの間の、総生産個数は約八万個、全国における取扱店舗は約五一〇店舗に達している。

(八) 控訴人代表者は被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品が好評を得て売上げを伸ばしているのを知り、平成三年一二月、被控訴人商品の形態を模倣した控訴人商品の製造販売を開始した。

2  判断

右認定事実によれば、被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品の基本的形態の特徴は、〈1〉 アルミ製口枠(アルミパイプハンドル)を、剥き出しに露出して、その金属としての質感や量感を強調し、これをリュックサックの開放部に蝦蟇口状に取り付けた新規な形状を採用した点と、〈2〉 これに主たる生地素材として表面はツヤ消しのゴムのような質感を持つように塩化ビニールにウレタン処理でヌメ加工し、裏面はモスケットと言いならわされているレーヨン基布から成る生地を組み合わせた点にあり、これにより商品出所表示の機能、商品表示性を取得していると認められる。また、右商品表示性を有する被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品の商品形態は、遅くとも控訴人が控訴人商品の製造販売を開始した平成三年一二月前には、この種商品の取引者及びその顧客層であるファッションに興味のある若者の間に被控訴人の商品表示として広く認識されるに至っていたものであり、現在もその状態は継続しているものということができる。

控訴人は、被控訴人が被控訴人商品をダンピングした事実があったことなどをとらえて、現在においては周知性は喪失していると主張し、控訴人代表者(当審)は、この前提事実に沿う供述をする。しかし、被控訴人は、低価格で販売した被控訴人商品は、展示品であって汚損が認められたからであると主張しているのであり、検乙第一一号証によれば、この主張事実をあながち否定することはできないのであって、右前提事実に関する控訴人の主張と供述は、直ちには採用することができない。なお、被控訴人商品が若者志向のものであって、流行性の高いものであることは否定し得ず、製造販売の開始から現在まで既に六年程度経過していることからすると、流行が下火になっていることがうかがえる。しかしながら、それは売れ行きの減少の問題にとどまり、その特徴的な形態によって獲得した周知性の喪失が直ちに裏付けられるものではないというべきである。

3  控訴人の主張について(原審主張分)

控訴人は、〈1〉 被控訴人は、資本金一〇〇〇万円、従業員数二〇名程度の小規模な会社であり、昭和五八年四月の設立で歴史も浅く、鞄、袋物業界におけるその知名度は低い。〈2〉 被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品は、最近若者の間で流行している変形リュックサックの一種にすぎず、同商品の発売開始前から他の業者が同種商品(検乙五~八)を販売しており、その中で同商品の商品形態が格別特徴的なものとはいえない。〈3〉 被控訴人の主張によっても、控訴人商品の販売開始時期と競合する平成三年一一月から平成四年四月までの期間をとると、この間、被控訴人は、被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品を全国約五〇〇店舗で一万七八二四本(一店当たり三五本)販売したにとどまるというのであり、そのうち大阪地区では一〇〇店舗位で販売されたというのであるが、各月の売上数量も安定せず、大阪市内の鞄、袋物業者の数は延べ約五五〇社にも達し、範囲を近畿一円に広げればその数は更に数十倍になるものとみられるから、右の程度の販売規模では、雑誌・テレビ等で紹介される以前に被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品の商品形態が鞄、袋物業界で周知性を取得することは不可能である。〈4〉 被控訴人が、被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品の拡販と周知性取得のために自ら宣伝広告をするなどの努力をした形跡は何らうかがえず、同商品が売れ筋商品となったのは、たまたまこの種商品の消費者である若者の一部が一時期その目新しさに飛びついてこれを購入した結果であり、テレビや雑誌が同商品を紹介したのも、そのような流行商品としての同商品を他の同種商品と一緒に紹介したにとどまるのであるから、被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品の商品形態が、全国あるいは関西一円で被控訴人の商品であることを示す出所表示、商品表示として周知性を取得したとは到底いえない旨主張する。

しかしながら、控訴人の右各主張はいずれも採用できない。その詳細は次のとおりである。

〈1〉 一般に、被冒用者の営業の内容及び規模の大小が不正競争防止法二条一項一号所定の周知性の認定資料の一つになる場合があることは否定できない。しかし、若者向けのファッション関連商品の事業分野など、日々ユニークな新規商品の企画開発のために、奇抜性、新規性及び独創性を発揮することが要求される事業分野において、小規模ないわゆるベンチャー企業が斬新なアイデアや商品デザインに基づいてヒット商品を生み出し、たちまちにして急成長を遂げる例の多いことはよく知られている。控訴人自体、資本金五〇〇万円、平成元年一一月設立の、被控訴人と比較しても更に小規模で歴史も浅い企業なのであり(乙九)、この種事業分野において周知性認定の上で被控訴人の営業の内容及び規模を論じる意味合いは極めて希薄というべきである。この点に関する控訴人主張は理由がない。

〈2〉 被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品には、被控訴人が先行投資者として一定の開発コストと商業上のリスクの下に企画開発した、それまでにはない独自の創作性と美的価値を認めることができる。控訴人指摘の他社製造の同種商品(検乙五~八)は、被控訴人のブルドックシリーズ商品の発売後、同商品が順調に売上げを伸ばし、市場において被控訴人の製造販売に係る人気商品であるとの認識が定着した段階で、それを模倣して製造販売されたものと認められるから(甲九、弁論の全趣旨)。この点に関する控訴人主張も採用できない。

〈3〉 商品の形態自体が自他識別機能を有しそれが周知性を取得したかどうかは、単にその販売数量及び金額の多寡のみにとどまらず、その形態が特殊かつ独自のものであるか否か、その形態が特定の商品形態として相当期間継続的かつ独占的に使用されてきたか否かなどの諸事情を総合考慮して決すべき事柄である。控訴人主張の点を考慮しても、当裁判所の前記認定判断を変更することはできない。

〈4〉 控訴人指摘のとおり、被控訴人が自ら新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどの通常のマスコミ媒体を利用するなどして積極的にブルドックシリーズ商品の宣伝広告に努めた形跡はうかがえない。けれども、一般的な経験則によれば、同商品のような流行商品の主たる購買層とみられる若者らは、自らのファッション感覚が鋭敏であるだけでなく、他人のファッションにも敏感であり、他人とは違った新規な商品を追い求めるため、通常の広告媒体によるよりも、むしろ自分自身で情報の収集に努め、自己の感性を頼りにして自ら小売店舗に足を向ける傾向も強いと考えられる。そして、この種商品においては、いわゆる口コミによる宣伝効果も大きく、被控訴人商品の発売開始後の売上げの推移、経過等を併せ考慮すれば、口コミによる宣伝効果は、少なくとも控訴人主張の通常の広告媒体を利用した場合のそれに匹敵するものであったと推測できる。したがって、この点に関する控訴人主張事実を考慮しても、当裁判所の前記認定判断を動かすことはできない。

4  控訴人の主張について(控訴審の主張分)

控訴人は、被控訴人商品がマスコミや流通業界で取り上げられたのは平成四年三月以降であって、控訴人商品の製造販売の開始よりも後であったと主張する。しかし、1の(四)で認定したように、被控訴人商品は平成二年から急激に売上げが増加したのであり、これを紹介したのが、1の(五)の平成四年三月号における雑誌での紹介であったと認められるのである。雑誌記事の発行は表紙に掲載の発行月よりも前であるのが通例であり、その編集はそれに先行する情報に基づくものであることなども勘案すると、平成四年三月号における雑誌での紹介よりも前の、遅くとも平成三年一二月より前には、口コミによる宣伝により、被控訴人商品の商品形態が、主として若者の間で被控訴人の商品表示として広く認識されるに至ったものと認められる。

控訴人はまた、被控訴人商品は、被控訴人の独創によるものではないと主張し、その立証として乙第一五号証、第二〇号証及び第二一号証を提出する。しかし、乙第一五号証における事実記載で示されている内容は、単にアルミフレームが従前から製造されていたというものにすぎず、また、乙第二〇、第二一号証の事実記載における鞄の具体的形状は明らかでなく、いずれも漠然としていて、控訴人の右主張を裏付けるに足りない。控訴人は、右主張の裏付けとして、被控訴人が製造販売した検乙第一三号証の鞄が、控訴人製造販売に係る検甲第五号証の形態の模倣であることを指摘する。しかしながら、この両者は全面のポケットの数と形状が異なるなどの点で明らかに形態を異にしており、控訴人の主張は前提を欠く。控訴人は、この前提事実の下に、被控訴人の請求はクリーンハンドの原則に反し、少なくとも過失相殺がされるべきであるとも主張するが、前提を欠くもので理由がない。

二  争点2(控訴人商品の商品形態は被控訴人商品の商品形態と同一のものか又は類似するもので、両商品間に出所の誤認混同が生じるか)

1  事実関係

証拠(甲八、一一、検甲一、二、被控訴人代表者、控訴人代表者=原審及び当審)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人商品と控訴人商品は、被控訴人商品を含むブルドックシリーズ商品の基本的形態の特徴〈1〉、〈2〉(前記一の2)において、顧客が被控訴人商品と間違って控訴人商品を購入するだけでなく、普段から被控訴人商品を見慣れているはずの被控訴人の取引先の小売業者も、購入者からの被控訴人商品の修理依頼品と一緒に、それとは知らずに間違って控訴人商品を混在させて被控訴人あてに送付してくるほどに酷似していること、小売業者の中には、バーゲンセールなどの時期に、被控訴人に対し、「消費者は被控訴人商品と控訴人商品の区別がつかない。控訴人はバーゲンセールをすると言っているが、被控訴人はどうするのか。」などと、暗に控訴人商品との廉売競争を持ちかける者もあることが認められる。

2  判断

控訴人商品は、被控訴人商品のデッドコピーといってよいほどに被控訴人商品と同一の形態的特徴を有しており、取引の実情の下において、取引者又は需要者は、両者の外観に基づく印象、記憶、連想等から、両商品を誤認混同するおそれが強いと認められる。

3  控訴人の主張について

控訴人は、被控訴人商品と控訴人商品との間には、原判決別紙相違点一覧表記載の相違点がある旨主張するが、それらはいずれも看者の注意を特にひかない部分に関する形状などの微差である。そのような相違点があるからといって、当裁判所の前記認定判断を変更することはできない。

三  争点3(控訴人商品の販売により被控訴人の営業上の利益が害されるか)控訴人が、被控訴人商品と酷似する控訴人商品を製造販売して被控訴人商品と誤認混同を生じさせるおそれの強い行為を継続する以上、他に特段の事情が認められない限り、被控訴人にはこのことにより営業上の利益を害せられるおそれがあるというべきであり、右特段の事情を認めるべき証拠はない。

控訴人代表者は、当審において、控訴人商品を廃棄したと述べるが、その具体的内容は定かでなく、将来とも、控訴人が控訴人商品を製造販売するおそれのあることは否定し得ない。

四  争点4

1  (控訴人に故意過失があるか)

控訴人代表者本人尋問の結果(原審及び当審)によれば、控訴人が被控訴人商品と酷似する控訴人商品を製造販売したこと(本件不正競争行為)について、控訴人に少なくとも過失があることを認めることができる。

2  (控訴人が賠償すべき被控訴人に生じた損害の金額)

控訴人は、不正競争防止法四条に基づき、被控訴人が被った営業上の利益侵害による損害を賠償する義務があるところ、同法五条一項に従い、控訴人の侵害行為により受けた利益の額が、被控訴人の損害額と推定されるので、控訴人の利益額を認定するに、証拠(乙一~四、八、控訴人代表者=原審及び当審)によれば、控訴人は、平成三年一二月から本件口頭弁論終結時の平成六年六月二四日までの間に、下請製造業者のヴォーグ・シマから、一個当たり単価二九五〇円で合計二五〇〇本を下らない控訴人商品の納入を受け、そのうち二二〇〇本を卸売業者に販売したこと、その値段は四〇〇二円を下回るものではなかったことが認められる。したがって、一個当たりの粗利益は一〇五二円を下回るものではなかったことが明らかである。

不正競争防止法五条一項にいう侵害者の利益とは純利益を意味するものと解されるところ、本件において、粗利益のうちのどの範囲が純利益となるのかの正確な主張、立証はないので、純利益の額は粗利益の額の五割を越えるものとも認められないし、五割を下回るものとも認められないというべきである。本件では、粗利益の五割の額をもって純利益の額と認めざるを得ない。

そうすると、控訴人の侵害行為により被控訴人の被った損害は、次のとおりの算式により、一一五万七二〇〇円に上るものと推定することができるが、それ以上の額は推定することができない。

1,052*2,200*0.5=1,157,200

控訴人は、被控訴人の売上減少は、流行商品であることと、季節的要因が起因していると主張する。なるほどこのような要因も、被控訴人の売上減少に起因している側面のあることは否定し得ないが、他面、このような要因は、控訴人商品についてもいえることである。不正競争防止法五条の推定規定が置かれたのは、本件のような場合に、通例、被控訴人商品の売上数と控訴人商品の売上数とが比例するものであることが前提となっているものと解されるところ、控訴人主張の右要因は、この前提を覆すものではなく、前記推定を左右するに足りるものではない。

第四  結語

以上によれば、被控訴人の本訴請求は、控訴人商品の製造販売等の禁止、既製品の廃棄、損害金一一五万七二〇〇円の支払を求める限度で理由がある(控訴人は控訴人商品の完成品を仕入れて販売しているものであり、製造はしていないから、半製品を保有していないと認められる)。

被控訴人の請求を認容した部分の原判決取消しを求める本件控訴は理由がない。

また、金銭認容額の変更を求める附帯控訴は一部理由があるので(原判決は八八万〇四四〇円の限度での金銭支払を命じている)、その旨原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 潮久郎 裁判官 山﨑杲 裁判官 塩月秀平)

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